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京都通

  • 2009/1/17

第109回 東林院『庭園を愛でながら小豆粥で初春を祝う』

おめでたい千両が見頃の庭どす

緑豊かな洛西の中心地にある妙心寺。
妙心寺には約40ヶ寺以上もの塔頭があります。
その中でもひと際庭園が美しい、「沙羅双樹の寺」としてたたずむのが「東林院」です。

細川氏綱が父の菩提を弔うために建立し、戦国大名の山名豊国が再建。
その際に「東林院」と改名されました。
山名豊国は織田信長、豊臣秀吉、徳川家康三代にわたり、その巧みな世渡り術が際立っていたそうで、戦は苦手で、文人タイプの大名だったそうです。
「お耳役」と呼ばれる今で言うスパイ役を担い、情報源を流していたと憶測されています。
そのような戦の歴史があったとは思えないほど、現在は穏やかで趣き深い禅寺として、また宿坊として人々の心を癒しています。

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おめでたい新年、こちらでは「千両・万両の庭」が見頃を迎えました。
その庭園を愛でながら、お正月にふさわしく「小豆粥(あずきがゆ)で初春を祝う会」が開かれます。
1月7日に七草粥を食べるように、1月15日の小正月に小豆粥を食べるというのは、平安時代からの風習です。
お正月は本来15日まで、15日はお正月の最後を祝う小正月として大切な日でした。
その日、家族そろって小豆粥を食べ、1年の邪気をはらい、万病を除くという意味づけがあります。

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もう今では、小正月に小豆粥を食べる風習も薄れてきました。
昔ながらの風習を復活させ、今の人たちが気軽に味わえないものかと、「東林院」の西川玄房和尚が考案したのが、「小豆粥で初春を祝う会」です。
小豆粥だけでなく、院内の菜園で採れた大根などの京野菜やお正月の縁起物、黒豆やおめでたい昆布やお菓子などもお祝いの膳に並びます。

お祝いの会は1月12日から31日まで20日間行われます。
平安時代を思わせる雅やかな儀式に参加してみませんか。
生きとし生けるものに感謝する儀式として、初日には散飯式という禅寺の食事作法にのっとった法要があります。
通常は非公開の庭園を見るチャンスでもあります。
厳かな寺での新年の儀式に、すがすがしい1年の始まりを感じてみてください。

宿坊は趣きある書院造りのお部屋どす

「東林院」の庭園は期間限定拝観です。
庭園を公開する式典期間以外は、宿坊に宿泊した者だけが、通常は観られない庭園をゆっくりと愛でることができます。
それがこちらの宿坊の魅力でしょう。
京都の宿坊も近代的なビルになっている所が多い中、「東林院」の宿坊は、昔ながらのたたずまいを見せています。
全室庭園に面した客室は書院造りで、テレビも電話もありません。喧噪を逃れた静寂のひとときに心身がなごみます。

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庭には一壷天と呼ばれる水琴窟があります。
長い竹の筒を通して水が落ちる音を楽しむものです。
そっと竹筒に耳をあてると、何とも言えない美しい音色に世俗を忘れてしまいます。
別世界に来たかのような安らいだ感覚に心地よく包まれます。

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美しい景色や静寂に浸るひとときも素晴らしいですが、お楽しみはもうひとつあります。
こちらの西川玄房和尚は、精進料理の達人でもあります。
食材からこだわり、院内に自らが菜園を耕し、育てた京野菜で精進料理を作ります。
宿泊者はその和尚手作りの精進料理が朝と夜の二食いただけます。

また和尚が指導する週2回の精進料理教室は人気。
和尚の軽快なトークで始まり、料理教室での調理、そしてその後は、美しい庭園を眺めながらの会食です。
はす蒸しのあんかけ、ごぼうとこんにゃくのピーナッツみそ和え、たまねぎとにんじんの紅酢和えなど、ひと工夫もふた工夫も考えられた西川和尚オリジナルのメニューです。
食前に、万物への感謝をこめて和尚が唱える「食事五観文」に続いて、皆で一緒に唱和してからいただきます。

「飽食の時代が長く続いていますが、こんな時代こそ食べ物の貴さ、命の貴さについて考えることが大切です。
『いただきます』という言葉は、目の前にある食材の命をいただいて自分の命が保たれるということへの最小限の感謝の気持ちだと思います。
精進料理を通してそんなことを思い起こしてもらえればいいですね」と西川和尚は語ります。

精進料理は西川和尚の手作りえ

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西川和尚は、男性ばかりの禅寺での生活で料理の腕前を養われたそうです。
精進料理の心について次のように語ります。

「そもそも精進料理は座禅と同じように修行の原点です。
食事は作ることも食べることも大事な禅の修行。
精進料理は肉、魚を避けたもので野菜だけの料理と、とらえている人が多いでしょう。

しかし、野菜にも命はあります。野菜も芽を出し花を咲かせ、種を残す…人間、動物と同じです。
その命によって私たちは生命を保たれているという考えが大切。
ただし今の時代、肉・魚を避けたものだけでは生きていけないでしょう。
肉や魚を食べる際も『肉・魚を生かしきる』ということに目覚めたら、それが精進の心です。

同時に季節と自然の風土を大切にする心を忘れてはいけません。最近は、季節をおろそかにしています。
日本には春夏秋冬という独特の風土があるのに、1年中、同じ食材、野菜を目にします。
旬の素材はその時期に食べてこそおいしく滋養があるのです」

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さて、「東林院」は「沙羅双樹の寺」として有名です。
沙羅双樹はお釈迦さまがお亡くなりになった時に、お釈迦様の死を嘆いて美しく咲いたと言われ、仏教とゆかりの深い花です。

また、平家物語の有名な一節に「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす…」とあります。
朝咲いて夕方には散りゆくはかない花。
はかなくもその散り方は潔いと言われ、散り際が美しい「滅びの美学」だと好む人も多いようです。
花びら1枚1枚が徐々に落ちてゆくのではなく、花ごとボタッと小気味良く落ちる沙羅の花。
その美しい花が見頃になる6月に「沙羅の花を愛でる会」が行われます。
1年に1度だけ開花する愛らしい沙羅の花を愛でながら、おうすや沙羅の花にちなんだ精進料理をいただく会です。

四季折々の楽しみ方が見つかる「東林院」。
まずは小豆粥で新年をお祝いしましょう。

※「小豆粥で初春を祝う会」1月12日(月・祝)~31日(土) 午前11時~午後3時
※「小豆粥・散飯式」1月12日(月・祝)午前10時
※「沙羅の花を愛でる会」6月12日~30日
※「梵燈(ぼんとう)のあかりに親しむ会」10月上旬
※「精進料理を体験する会」毎週火曜日・金曜日
それぞれ参加ご希望の方はお問い合わせください。

取材協力 : 東林院
〒616-8035 京都府京都市右京区花園妙心寺町59
電話番号 : (075)463-1334

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