Kyoto tsu

京都通

  • 2012/6/21

第253回 法金剛院『極楽浄土の世界を彷彿とさせる蓮の寺』

平安時代を偲ばせる、待賢門院ゆかりのお寺なんどす

京都・花園にある法金剛院は、平安時代の始め(830年頃)、右大臣清原夏野(きよはらなつの)がこの地に山荘を築いたことに由来します。
この山荘には、嵯峨天皇や仁明天皇など多くの天皇が訪れ、詩歌管弦の宴を催したといいます。
ちなみに、辺り一帯は貴族の山荘が建ち並び、様々な花が咲く場所だったことから、この地を花園と呼ぶようになったのだそう。
山荘は夏野の没後、双丘寺(ならびがおかでら)と称され、天安2年(858年)には文徳(もんとく)天皇が大伽羅を建立し、天安寺と改称されました。

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その後、平安時代末期の大治5年(1130年)、鳥羽天皇の中宮であった待賢門院璋子(たいけんもんいんしょうし/たまこ)が荒れていた建物を整えました。
当初、近くにある仁和寺のお堂の一つとして修繕されたのですが、思いのほか立派に完成したため、「法金剛院」と新たに名付けられたのです。

待賢門院は崇徳(すとく)天皇と後白河天皇の生母で、養父・白河法皇の寵愛を受けていたといわれており、この寺を復興したのは、白河法皇の追善のためでもありました。
失意の中にあった待賢門院は、法金剛院で競馬(くらべうま)や舟遊びなどを楽しみ、この寺で心を慰めました。
当時の法金剛院には、待賢門院の美貌と雅びやかな庭園にひかれて、多くの歌人が集いました。

平清盛の友人で歌人の西行法師もその一人でした。
武士として生きる道を捨て、若くして出家した西行は、17歳も年上だった待賢門院に恋焦がれた人物であるといわれています。
「紅葉みて君が袂(たもと)やしぐるらむ 昔の秋の色にしたひて」
これは待賢門院が亡くなった時に、彼女を偲んで西行が詠んだ歌です。
西行は高貴な女性への叶わぬ恋を題材に、幾つもの歌を残しています。

蓮が織りなす極楽浄土の世界を味わっておくれやす

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法金剛院の庭園は、待賢門院が極楽浄土をイメージして造園した池泉廻遊式浄土庭園(ちせんかいゆうしきじょうどていえん/大きな池を中心にした庭を歩きながら鑑賞するスタイルの庭で、阿弥陀極楽浄土の世界を再現)。

昭和45年(1970年)に、荒廃し地中に埋もれていた庭園が発掘され、再び整備されて現在の姿となりました。
明治時代に境内が縮小されたため、この浄土庭園は待賢門院が修繕した平安時代のものとは異なります。
庭園の中で、当時の姿を今に伝える唯一の遺構が、庭園北側に組まれた青女(せいじょ)の滝です。
青女の滝は待賢門院の発願のもと、仁和寺の僧・林賢(りんけん)と静意(じょうい)が築きました。
平安時代の庭園において発願者や作者がはっきりしており、さらにその遺構が残っているものは他に例がありません。
その滝の高さは、現存する平安時代の滝組では最大級の約5メートル。
青女の滝を含めこの庭園は国の特別名勝に指定されています。

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このお寺は別名「蓮の寺」と呼ばれているように、毎年7月上旬から8月初旬にかけて、その庭園一面に蓮が咲き誇ります。
蓮の花は極楽に咲くといわれており、寺院では仏像の台座や蓮華模様などに多く見られます。
こちらにある蓮は、現在のご住職が長年育てられたものから寄贈されたものまで、その品種は90種類以上。
ひと株に10~15もの花をつける「誠蓮」や数千年も前の泥炭層の中から掘り出された実から花を咲かせたという「大賀蓮(おおがはす)」など珍しい品種も見ることができます。

実は、蓮の花は開花から3~4日間で散ってしまいます。
開花初日は、夜明けから朝の10時頃まで猪口(ちょこ)のように咲き、2日目には椀のように11時頃まで咲きます。
そして3~4日目は昼過ぎから夕方頃まで咲き、そして散ってしまうのです。
見頃の時期には、朝7時から開門しているので、早めに訪れるといいでしょう。
池一面に蓮の花が群生する姿は、まさに極楽浄土の世界がこの世に現れたかのようです。

※2012年夏の特別公開
7月14日(土)~8月5日(日)までは朝7時から開門

四季折々の花と貴重な仏像も見どころどすえ

法金剛院は「関西花の寺第13番霊場」に定められており、季節折々の花が楽しめます。
表門には、いま何の花が咲いているかを書いた立て札が掲げられています。
上記で紹介した蓮のほか、有名なのは4月上旬に咲くソメイヨシノや枝垂れ桜。
特に法金剛院に古くから伝わる待賢門院桜は、紫がかった濃い紅色をしており、早咲きの枝垂れ桜として知られています。

桜に続いて、5月中旬から6月上旬まではサツキが、6月になるとアヤメや花菖蒲の花が咲きます。
さらに菩提樹や夏ツバキ、アジサイ、ナデシコなどが夏の訪れを告げます。
そして、9月下旬になると彼岸花が見ごろを迎えます。
ここでは大変珍しい白い彼岸花を見ることができます。
さらに秋には嵯峨菊や紅葉が、冬はセンリョウやマンリョウ、梅などが楽しめます。
極楽浄土の庭は、一年を通していつ訪れても花が絶えません。

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そんな花々と同様に、見逃してはならないのが寺宝である美しい仏像の数々です。
礼堂奥の仏殿には、御本尊の「阿弥陀如来坐像」をはじめ「丈六阿弥陀如来坐像」、「十一面観世音菩薩座像」など多数の仏像が安置されています。
その多くは重要文化財に指定されており、これらは全て公開されています。

中でも、「阿弥陀如来坐像」は高さ2.2メートルもある立派な木像で、台座の蓮の華やかな彫刻が印象的です。
そして、「十一面観世音菩薩座像」も四つの手を持つ珍しいデザインで、金属工芸を施した厨子(ずし/仏像や仏舎利などを中に安置する仏具)に描かれた絵も大変素晴らしく、その荘厳な色彩には思わず見とれてしまうほどです。

数々の仏像を拝観し、四季折々のお花を愛でることのできる法金剛院。
ここを訪れると、きっと仏様のように穏やかで清々しい気持ちになることでしょう。

取材協力 : 法金剛院
〒616-8044 京都市右京区花園扇野町49番地
電話番号 : (075)461-9428

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