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京都通

  • 2012/7/26

第256回 狸谷山不動院『宮本武蔵も修行した、たぬきだにのお不動さん』

御本尊の不動明王さんが「たぬき」なんどす

叡山電鉄の一乗寺駅から東の山手に向かって歩き、急な坂道を登ると、狸谷山不動院の入口に辿り着きます。
ここは真言宗修験道大本山の山寺で、修験道の修行場として長年にわたって信仰されてきました。
この辺りでは「たぬきだにのお不動さん」と呼ばれており、境内にはたぬきの像がたくさん安置されています。
可愛らしいたぬきの表情にほのぼのとした印象を受けますが、このようにたぬきが置かれるようになったのは、こちらのご本尊が「咤怒鬼(たぬき)不動明王」であることに由来します。

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狸谷山不動院の歴史は古く、天応元年(781年)に桓武天皇の勅願により、平安京の東北に祀る鬼門守護として、この「咤怒鬼不動明王」が安置されたことに始まります。
名前から想像できるように、「鬼を叱る」といわれるほど大変険しい表情をしていることから、悪鬼・悪霊退散、あらゆる災難を取り除いてくれる不動明王として今日でも厚く信仰されています。
悪い行いをする人を、正しい道に引き戻そうとそれは恐ろしい表情をしているのですね。
咤怒鬼不動明王は雑誌などのメディアには公開されていませんので、ぜひ参拝して実際にご覧ください。
不動明王と目を合わせると、きっと身も心が引き締まることでしょう。

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また、たぬきを他抜きと言葉をあて、「他を抜く」ということから、商売ごとや芸事・勝負事のご利益を求めて、商売人や芸能人、スポーツ選手などが参拝に訪れることも多いそうです。

修行の寺やから、そう簡単には辿りつきまへん

境内に入ると、今度は長い石段を上がらなくてはなりません。
この辺りは山間にあるので、傾斜もきついため、この階段は別名「健康階段」と呼ばれています。
階段を上っている途中、「お迎え大師」と名付けられた弘法大師像に出会います。
よく見ると腰から足元にかけて、手のひらサイズの小さなわらじをたくさんぶら下げています。
これは健脚祈願のお守りで、参拝者が「足腰が丈夫でありますように」と願いを込めてくくり付けたものです。

250段もの階段を上りきると、山の斜面にそびえ立つ本殿が眼前に迫ってきます。
ご本尊の咤怒鬼不動明王はもともと洞窟の中に納められており、その不動明王に合わせて、本殿が建てられました。
清水寺の舞台を彷彿とさせるこの本殿は、山から迫り出すように建てられた日本独特の「懸崖造(けんがいづくり)」という工法が取り入れられています。

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本殿舞台に立つには、あと少し階段を上らなくてはいけません。
階段は二手あり、44段の少し急な階段は「男厄坂」、33段の緩やかな階段は「女厄坂」と名付けられており、どちらを選ぶかは自分の体力次第です。
ようやく辿り着いた本殿の舞台からは、木々の間に京都の市街地を眺めることができます。
この風景を目にすれば、大変な思いをしてここまで登ってきた甲斐があるというものです。
ちなみに境内には宮本武蔵が精神修行をし、己に克つ不動心を得たと伝わる滝もあります。
ここが修行の寺であることを、改めて感じさせられますね。

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ほかにも、車のお祓いをする立派な「自動車祈祷殿」が境内にあります。
実は交通安全の祈願でも有名で、京都の街中では「追突注意」と書かれた狸谷山不動院のステッカーを貼っている車をよく見かけます。
大切な車を守るだけでなく、交通事故を防止するためにも、覚えておくといいかもしれませんね。

火の上を渡って、無病息災を祈願しまひょ

毎月28日は狸谷山不動院の縁日であり、その年の最初の縁日を「初不動」と呼びます。
この日は修験者山伏による災難除けの大護摩供養が行われ、「ガン封じの笹酒」の無料接待があります。
笹酒の接待は約290年前、木食上人(もくじきしょうにん/肉類、五穀を食べず、木の実や草などを食料として修行することを木食といい、木食上人はその修行を続ける高僧のこと)が滝の水を青竹の筒に入れ、病人に飲ませ治癒させた故事に基づいています。
当日は家内安全や商売繁盛を願う多くの人で賑わいます。

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また、毎年7月28日には「狸谷山火渡り祭」が行われています。
日が落ちた夜七時頃から本堂で祈祷が始まり、その後、結界を張った本殿前で護摩を焚き上げます。
そして、護摩の残り火で道を作り、その上を素足で渡る「火渡り行」を行います。
人間の業を焼くことで清め、無病息災を祈る荒行です。

「素足で歩いて熱くないの?」と不安に思う方もおられるかもしれませんが、山伏が先導してくれるので、お子さんや初めて火渡りを体験する方でも安心です。
ちなみにこの火渡り、特に外国の方に人気があるのだそう。
京都のお祭は見物型のものが多く、こうして体験できるお祭は珍しいからかもしれません。
さらに、この日は「祈り灯ろう」も行われ、境内の長い石段には願いごとを書いたたくさんの行灯が並びます。
夏の暑いさなかに行われる行事ですが、この幻想的な光景にしばし暑さも吹き飛ぶことでしょう。

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こうした行事には多くの方が訪れますが、やはり修行のお寺だけあって、普段はひっそりとしています。
じっくり自分自身を見つめ直したい、そういう方にはぴったりかもしれませんね。

取材協力 : 狸谷山不動院
〒606-8156 京都市左京区一乗寺松原町6
電話番号 : (075)722-0025

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