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京都通

  • 2016/1/16

第306回 市原平兵衞商店『自分好みのお箸に出逢える、お箸の専門店』

京の都でお箸一筋に商売してきはったんやなぁ

江戸時代の創業以来、禁裏御用のお箸専門店として約250年以上続く「市原平兵衞商店」。
お箸を扱う店は多々ありますが、日常のものから茶事、仏事用など、お箸がすべて揃うのは日本でおそらくここだけです。

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日本の食文化は多様化し、一般の食卓に洋食が登場しても、フォークやナイフではなく、やはりお箸で食べることが圧倒的に多いでしょう。
このようにお箸は毎日の食事で当たり前に使われていますが、お箸について考える機会はそう多くはないかもしれません。
そこで、お店のことをお話しする前に、まずはお箸の魅力に少し触れてみましょう。

中国大陸から日本へお箸の文化が伝来し、お箸が用いられるようになったのは弥生時代からといわれています。
その頃は神様にお供え物を差し出す祭具として、ピンセットのような形のお箸が使われていました。
神聖な祭具だったお箸が、飛鳥時代には調理で使われるようになり、奈良時代以降、庶民の間で使われるようになりました。

お正月などに使うハレの箸(祝い事)は両端が細くなっていますが、片方は神様が召し上がるために、もう片方は自分が食べるために細くなっています。
天地の恵み、そして神様の恵みに感謝しながら食べましょうといった意味あいがあり、ときおり大皿から料理を取り分ける際に、お箸をひっくり返してもう片方で取ることがありますが、これは間違った使い方です。

ハレの箸に対して、ケの箸(日常使い)があります。
さて、たった二本の棒というシンプルな道具ですが、お箸にはつまむ、かき混ぜるなどといった多様性があります。
見た目の繊細な美しさも兼ね備えており、作法が美しいとその人に品格さえ感じられます。
金属製のお箸とスプーンを韓国など、アジア圏ではお箸を使う国が多々ありますが、お箸だけを使うのは日本だけ。
ここに日本が「お箸の国」と言われる所以があります。

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お箸いうても素材も用途もさまざまなんどすなぁ

市原平兵衞商店には食卓をはじめ、あらゆるシーンで使うお箸、さらには様々な素材のお箸が約400種類揃っています。
一度にたくさんのお箸を見て、そして実際に持って感触を味わいながら選ぶことができます。

まずは、料理人やフードコーディネーターといった料理のプロに喜ばれているのが、お箸の先が細くてしなやかな「京風もりつけ箸」。
京都では江戸時代末頃より、花板(料理長)にのみ使用が許されたという盛り付け用のお箸をもとに、現代用に工夫されたもの。
料理を美しく盛り付けたり、お弁当をきれいに詰めたりするのに適しており、美しい見た目は料理の味にも左右してきます。
そのほか、水気に強い桧を使った「あげもの箸」、硬くて火に強い鉄木を使った「焼物箸」など、料理によってお箸もさまざま。

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そして、このお店の看板商品ともいえるのが「みやこばし」。
先代である7代目が考案した、希少な「すす竹」を使ったもので、丈夫で反りにくい素材が使われています。
すす竹とは天井裏などに使用されていた竹が、囲炉裏やかまどの煙でいぶされ、約150年の年月が経て、頑丈で丈夫な竹になったもの。
古い建物が減少していくとともに、すす竹の数にも限りがあることから、大変貴重な素材となっています。
物がつまみやすく、手になじみもよいので、一度使うと他のお箸は使えないというファンが全国に多くいらっしゃいます。

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また、現在の8代目・市原高さんが考案した「平安箸」も人気商品です。
素材は育って3年目の京都の真竹が使用されており、この竹は粘り気が強く、弾力性があるのが特徴です。
箸先がとりわけ細く、つまんだり、切る作業がしやすく、手にすることでその所作にも気品が感じられます。

実は「一代に逸品箸をつくること、当主たるもの新しい箸を必ず一種以上考案せよできなければ隠居せよ」というのが、市原平兵衞商店の家訓なのだとか。
昔の作品に捉われることなく、その代ごとに独自の作品を創ることが、店を継ぐ者の使命なのだそう。
また、製造などは手を出さず、あくまでもプロデューサーとして創意工夫して職人さんに伝えることを受け継がれています。

自分に合った好みのお箸を見つけておくれやす

お箸のほか、店頭には竹を使った商品や箸置きなど、お箸に関連する商品も数々並んでいます。
かわいらしい箸置きや温もりある竹製品など、食卓を彩る道具は見ているだけでも気持ちが豊かになります。

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では、肝心のお箸ですが、どのようなものを選べばよいのでしょうか。
竹箸・木箸・塗箸など、やはりお勧めなのは、みやこばし・平安箸です。
京都は竹の産地としても有名で、優秀な竹職人さんが多くいらっしゃいます。
竹は丈夫でしっかりしなるので細くても折れにくく、物をつまみやすく、口当たりもなめらか。
しかし、「その人にあったお箸をお買い求めいただきたい」という思いから、パンフレットやカタログは作らず、またネット販売も基本的にはしていません。
気になる方は是非、店頭に足を運んでいただき、実際にお箸を手にとって感触や使い心地を試してみてください。

それでも、どのお箸を選んでいいのか迷ってしまうという方には、お箸の長さ、柄などの好みを伝え、お箸を持つ手を見せることで、その人に合ったお箸を店員さんがお薦めしてくれます。
ちなみに日本人はお茶碗とお箸を持って食べることから、その重さのバランスも関係してくるよう。
京都だと、清水焼の茶碗が比較的薄くて小振りで軽いことから、お箸も軽めのものが好まれ、関東では重量感のある益子焼が代表するように、しっかりとした重めのお箸が好まれていたとか。
昔は知らず知らずのうちにそういうお箸を選んでいたようですが、今は全国のお茶碗がすぐ手に入る時代なので、あまり気にせず、自分好みのお箸を選ぶのがよいでしょう。

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また、手入れ方法としては、食器洗浄機などは使わず、優しく手洗いすること。
そして、箸立てに入れると下になった方が傷みやすく汚れがたまるので、よく拭いてから、横に寝かして保存するのがベストです。
お箸は贈り物としても喜ばれ、結婚祝いや引き出物でもよく使われます。
心と心の「橋(箸)渡し」をする道具として、大切な相手に贈ることで、人間関係も円滑になることでしょう。
新しい年の初めに、そして春に向けて、自分好みの「マイ箸」を新調してみてはいかがでしょうか。

取材協力 : 市原平兵衞商店
〒600-8081 京都市下京区堺町通四条下ル
電話番号 : (075)341-3831
FAX番号 : (075)341-3832

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