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  • 2016/6/18

第311回 禅居庵 摩利支尊天堂『インドの女神・摩利支天を祀る建仁寺の塔頭』

摩利支天は開運・必勝の女神なんどすえ

祗園の京都ゑびす神社の東側に建つ「禅居庵」。ここは、禅寺・建仁寺の塔頭(たっちゅう)寺院の一つで、元弘3年(1333年)に建仁寺第23世の大鑑清拙正澄禅師(だいかんせいせつしょうちょうぜんし/1274~1339年)によって建立されました。現在は摩利支尊天堂のみ一般公開しており、ここにはご本尊として秘仏の「摩利支天」が祀られています。禅宗寺院では本堂のご本尊とは別に、境内に鎮守を祀って、天災地変・火災盗難などから境内・諸堂を護り、仏法益々の興隆を願うのだそうです。摩利支天とは古代インドの開運と勝利の女神で、金沢の宝泉寺、東京の徳大寺と並んで、「日本三大摩利支天」の一つに数えられています。

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摩利支尊天堂の建物は、戦国時代の戦火で焼失しましたが、天文16年(1547年)に織田信長の父・信秀によって再建されたと伝えられています。その後、拝殿が新設されたり、柱を移動させたり、漆を塗ったり、絵が描かれるなどして今の姿になりました。天文の再建とはいえ、創建時代の禅宗様仏殿の遺構が残されており、中世様式の貴重な建造物ということで、京都府の文化財に指定されています。

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摩利支尊天堂では、お堂の周りを回りながら願いを唱えると、その願いが必ず叶うと伝えられています。回る数を決め、その数の竹の棒を手に取ります。そして、お堂を時計回りに回って、一周回るたびに木の棒を箱に戻していくのです。また、毎月のご縁日にはお経を唱えた後、書院にて坐禅や茶礼が受けられるほか、住職のお話を聞くことができます。そして10月20日の大祭には、聖護院門跡の修験宗による「採燈護摩供(さいとうごまく)」が行われ、国家安泰、万民平和、五穀豊穣、寺門の繁栄などを祈願します。この日は、ご本尊の秘仏・摩利支天の御開帳があり、そのありがたいお姿を拝むことができます。

大黒さんのお祭りにおいでやす

摩利支天の語源ですが、これはサンスクリット語で「陽炎」を意味する「Marici(マリーチ)」の音を漢字に写したものです。また、そのルーツは「威光」「陽炎」が神格化した古代インドの女神マーリーチで、創造神プラフマー(梵天)の子と言われています。陽炎には実体が無く、姿は見えません。捕らえられて傷つけられることも、害を加えられることも無いところから、戦国武将の間で摩利支天信仰が広がりました。楠木正成や前田利家は、兜の中に摩利支天の小像を入れて出陣したと言われています。

ご本尊の摩利支天像は、大鑑禅師が北条高時の招きにより中国から日本へ渡った際に、自ら刻んで持参したのだそうです。その摩利支天像は三面六臂の憤怒相で一面は菩薩の相、もう一面は童女の相をしています。六本の手にはそれぞれ弓・箭・針・線・鉤・羅索・金剛杵などの武器を持っています。針や線は害するものの口と眼を縫い合わせ、害を加えないようにするため。そして、摩利支天は猪を眷族(けんぞく)として従え、猪車に乗り、また七頭の猪に坐していることから、摩利支天は亥年生まれの守護神としても知られています。農家では作物を荒らす困った猪も、古代インドや西アジアではその素早さが智慧の迅速さや勇敢さを表すものとして結びついたのかもしれません。境内にも数多くの猪の像が祀られており、狛猪、お堂前の欄間の彫刻、手水鉢(ちょうずばち)の像など、そこかしこに猪の姿が見られます。

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ここには開運勝利を願って、受験生や商売をしている方、スポーツ選手などが参拝に来られるほか、厄除けのご利益もあり、祇園や宮川町の芸妓さんたち、さらには南座に出演する役者さんがお参りに来られることもあるそうです。

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お堂の天井を見上げておくれやす

建仁寺の法堂に描かれた見事な天井画「双龍図」はとても有名ですが、これが完成したのは建仁寺創建800年にあたる平成14年(2002年)のこと。実は、摩利支尊天堂にも天井画「雲龍図」があり、こちらはかなりの年代もので、注意深く目を凝らすと、龍の姿がかすかに見てとれます。それもそのはず、この雲龍図は幕末に活躍した日本画家・鈴木百年・松年(しょうねん)父子によって、明治12年に完成したもの。当初は息子の松年に依頼があったものの、父・百年に変更されました。

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しかし、松年が頑として譲らなかったため、龍を百年が、雲を松年が描き、親子合作となった逸話の天井画です。また、禅居庵の猪の絵馬は、建仁寺の双龍図を手掛けた日本画家・小泉淳作氏によるものです。かつて絵馬が掛けてあった「絵馬堂」は平成19年に改装され、今ではお守りやおみくじなどを授与する場所となっています。ここのガラス窓からは、書院のお庭が拝見できます。お庭や境内には梅や桜、サツキ、キキョウ、アジサイ、サザンカなど、一年を通して花が彩り、参拝者の目を楽しませてくれます。

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また、イチョウの古い大木は、一本の太い幹をしていますが、上にのびるにつれて二手に分かれた、「相生(あいおい)の木」のような姿をしており、力強いパワーが感じられます。なお、禅居庵からは、竹が植えられた風情ある石畳の路地を通って、建仁寺の境内に入ることができます。道幅が狭いので、道をお互い譲り合ってくださいという思いを込めて、「ゆずりあいの小道」と呼ばれています。途中にある苔庭は自由に見学できますので、是非、散策してみてはいかがでしょうか。

取材協力 : 禅居庵 摩利支尊天堂
〒605-0811 京都市東山区大和大路通四条下る四丁目小松町146
電話番号 : (075)561-5556
FAX番号 : (075)541-6455

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