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京都通

  • 2017/3/18

第320回 本満寺『勇壮な桜の木が出迎える、近衛家ゆかりのお寺』

寺名にはお釈迦様の願いが込められているんどすえ

京都御所の少し北に上がったところにある「本満寺」は応永17年(1410年)、関白・近衛道嗣(このえみちつぐ)の息子・日秀(にっしゅう)上人が朝廷から敷地三万坪を与えられて創建した日蓮宗の本山です。

正式名称を「広宣流布山 本願満足寺(こうせんるふざん ほんがんまんぞくじ)」といい、何ともありがたい気持ちになるこのお寺の名前にはお釈迦様の本願である「人の苦しみを取り除くことでみんなが幸せになり、満足のいく世の中であってほしい」という思いが込められています。もともと創建時は今出川新町にあり、その周辺には今も「元本満寺町」という町名が残っています。

天文5年(1536年)の「天文法華の乱」でお堂がすべて焼失してしまうと、僧たちは他のお寺とともに大阪・堺にその身を追われました。幕府から10年間は京都に戻ってはならないと言われていましたが、近衛家と関係の深い本満寺は朝廷から早々に帰京が許され、天文8年(1539年)に戦国時代の公家・近衛尚通(このえひさみち)によって現在の地に再建され、大いに栄えることとなりました。

境内奥には墓地が広がり、中には美男子で知られる出雲の武将で「山陰の麒麟児」と称された山中鹿之助のお墓があります。歴史好きの方に人気が高く、お墓参りに訪れるファンの姿も見られます。また、本堂脇には徳川家康二男秀康の正室・蓮乗院(れんじょういん)の石廟があります。

ありがたいお像など寺宝がいっぱいあるんやて

境内には本堂、方丈、鐘楼、七面大明神を祀る七面堂などが建ち並び、西側には京都御所から寄贈された山門があります。

また、重要文化財に指定されている「紺紙金泥一字宝塔法華経(こんしこんでいいちじほうとうほけきょう)」「観普賢経(かんふげんきょう)」は、聖徳太子によって書かれたものと伝えられています。ほかにも多数の寺宝がありますが、中でも興味深い逸話が残る「天拝祖師像」をご紹介しておきましょう。

この祖師像は日蓮宗を開いた日蓮上人が生きておられた時代に、その弟子の日高上人が霊木に日蓮上人の姿を彫ったお像で、当初は黒田村(現・京都市右京区)の城に祀られていました。戦国の世になり、城は焼かれてしまいますが、燃えた城の中からこのお像が発見されたのです。

しかし、焼けるはずの物が焼けないとは恐ろしいことだと村人たちは忌み嫌い、ちょうどその頃、村に熱病が流行っていたことから、その病はお像の祟りではないかと他の宗派の者が因縁を付けました。こうしてお像は黒田村の山を越えた芹生の谷に捨てられてしまうのですが。

やがて、夜な夜な光を発するそのお像は芹生の村人によって発見されます。何でも、そこから法華経を唱える声が聞こえてきたともいわれています。

そして芹生村では大切に祀られるのですが、今度は噂を聞き付けた盗賊に盗まれてしまいます。高値で売りつけてやろうと伊勢方面に向かった盗賊ですが、こともあろうかその道中で熱病にうなされ、京の都に舞い戻ってきました。気味が悪いから何とかしてくれと、助けを求めたのが本満寺でした。

こうして本満寺で祀られたお像は、天皇が拝みに来られたことから「天拝祖師像」といわれるようになったのです。

見事な桜や珍しい牡丹を愛でておくれやす

本満寺には樹齢約100年の大きなシダレ桜が植えられており、春には満開の桜を一目見ようと多くの人が訪れます。台湾をはじめ海外からのツアー客も訪れるほど、今では大人気の桜の名所となっています。

ちなみに日蓮宗の総本山、山梨県にある身延山久遠寺(みのべやま くおんじ)はシダレ桜の名所として知られており、日蓮宗のお寺にはたいていシダレ桜が植えられているのだそう。そのほか、ソメイヨシノもあり、春の境内をピンク色に染め上げます。

また、近衛家にゆかりのあるお寺ということで、近衛家の家紋である牡丹が10年ほど前に植えられ、今では「牡丹のお寺」としても知られるようになりました。数種類の牡丹の中でも、鮮やかな黄色をした「ハイヌーン」という珍しい品種が注目を集めています。

お花の季節を楽しんだ後は、お寺の行事に参加してみてはいかがでしょう。少し先になりますが、五山の送り火が行われる8月16日に「送り塔婆供養」があります。朝から夕方まで一日中お経が唱えられており、近隣の方にとっては夏の風物詩となっています。そして12月1日は古い仏具などを炊き上げ供養する「お火焚」が行われ、大晦日には除夜の鐘を撞くことができます。

観光寺院でないこともあって、普段は情緒ある静けさが感じられる本満寺。その余韻に浸りながら、すぐ近くにある出町の商店街をぶらり歩きするのもおすすめです。

取材協力 : 本満寺
〒602-0802 京都市上京区寺町通今出川上ル二丁目鶴山町16
電話番号 : 075-231-4784
FAX番号 : 075-223-5722

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