Kyoto tsu
京都通
- 2018/7/5
第335回 五智山 蓮華寺『五体の石像・五智如来が出迎える御室の名刹』
近畿三十六不動尊霊場にもなっているんどす
京都の御室といえば世界遺産で知られる仁和寺が有名ですが、こちらも是非足を運んでいただきたいのが、仁和寺のすぐお隣にある「五智山 蓮華寺」です。
京都には天台宗の蓮華寺が八瀬にあり、混同されるかもしれませんが、ここ五智山 蓮華寺は真言宗御室派の別格本山で、天喜5年(1057年)、後冷泉天皇の勅願によって、藤原康基が不動明王像を安置したのが始まりとされています。
3年ほど前に新しく建て替えられた本堂にはご本尊の阿弥陀如来が祀られています。
また、「近畿三十六不動尊霊場」の十五番目に位置しており、不動堂では不動明王を自由に参拝していただけます。
もともと、五智山 蓮華寺は広沢池(ひろさわのいけ)の近くにあり、仁和寺の奥の院として栄えていました。
しかし、応仁の乱で焼失し、御室より少し西にある鳴滝の音戸山(おんどやま)の山上に再建されますが、長い間、荒廃が続きました。
江戸時代に入り、寛永年間のある日のこと、そこを通りかかった江戸の豪商・樋口平太夫が「この荒れ果てた寺を再興しなさい」というお告げを受けたことから寛永18年(1641年)に再建され、仁和寺の宮覚深法親王(後水尾天皇皇兄)より、改めて「五智山 蓮華寺」の号を賜ったのです。
音戸山から現在の地に移されたのは、時を経て、昭和3年(1928年)のことです。
穏やかなお顔の仏さんが心を癒してくれはります
境内に入ると、約2メートルもある五体の大きな石像が参拝者を出迎えます。
これは、山号の五智山の由来になっている五智如来坐像で、古来より庶民に深く信仰され、お寺のシンボルにもなっています。
向かって右から、医薬の功徳を表す「薬師如来」、福徳財宝の功徳を表す「宝生如来」、五穀豊穣の功徳を表す「大日如来」、極楽往生の功徳を表す「阿弥陀如来」、知恵聡明の功徳を表す「釈迦如来」となっており、大日如来を中心に宇宙そのものを象徴、まさに壮大なパワーが感じられます。
これらは前述の平太夫がこのお寺を再興するにあたって、木喰僧・坦称上人(もくじきそう・たんしょうしょうにん)に彫刻を依頼したもの。
坦称上人は僧侶でありながら、仏師としてもその名を知られた人物で、晩年、自らの命をかけて制作したのが、この五智如来坐像と後方にある11体の石像です。
どれも坦称上人ならではの特徴がよく表れており、ぽっちゃりとしたお顔立ちと、優しく穏やかな表情は、見る者の心を自然と落ち着かせてくれます。
坦称上人はこれらの彫刻を手掛ける際、信州・浅間・紀州那智三山でそれぞれ百日の荒行を遂げて、石仏を完成しました。
神奈川県の海岸沿いにある真鶴の洞窟で完成した巨大な石像は、おそらく船で京都まで何日もかけて運び込まれたのでしょう。
しかし、山の上にどのように持って上げたのか、文献などは残っていません。
もちろん、山から下ろしてきた昭和33年(1958年)当時もそのご苦労は相当なものだったといいます。
夏はきゅうり封じで、厄除けしておくれやす
五智山 蓮華寺といえば、京都の夏を彩る風物詩「きゅうり封じ」が行われるお寺としても知られています。
これは、きゅうりに病を封じ込める厄除けの伝統行事で、こちらでは7月の土用の丑の日に近い土日に行われます。
弘法大師空海が病気平癒と無病息災の願いを込めて、五智不動尊を創祀した際に残された、1200年続く秘法です。
まず、受付にてきゅうりをいただき、名前、数え年、願い事を用紙に書きます。
そして、3週間前から拝まれた護符(神仏のご加護が宿ったお札)が、ご住職によってきゅうり1本1本に埋め込まれます。
祈祷してもらったきゅうりを家に持ち帰り、3日間朝晩、ご真言を唱えながら、体の悪い部分や痛いところをきゅうりでさすります。
最後は、病を封じ込めたきゅうりを土に埋めることで、病が消えることを祈願します。
埋める場所がないという方は、お寺へ持っていきます。
また、当日参拝できないという方や遠方の方には、紙でできたきゅうりで、きゅうり封じができるよう、郵送での対応もあります。
ちなみに、きゅうりが使われるのは95%以上が水分であるため、その水分に悪いものが溶け込みやすいと考えられたからなのだそうです。
さらに、御不動様の縁日にあたる毎月28日には、「月例祭」として、不動堂で護摩が炊かれます。
護摩木に願い事を書き、僧侶とともに般若心経やご真言を唱えることで、諸願成就を願います。
12月13日と大晦日には、「紫燈大護摩供」といって、屋外で護摩が炊かれ、大晦日にはこの後、一般の方も除夜の鐘をつくことができます。
もう少し親しみやすいところで、年に2回、「蓮華寺落語会」が開催されており、今年の秋で第43回を迎えます。
さまざまな行事を通して、お寺の存在をより身近に感じていただけるのではないでしょうか。
※2018年の「きゅうり封じ」は7月21日(土)、22日(日)の2日間開催されます。
取材協力 : 五智山蓮華寺
〒616-8092 京都府京都市右京区御室大内20
電話番号 : 075-462-5300