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  • 2018/11/10

第340回 霊鑑寺『椿と紅葉が雅やかな皇室ゆかりの谷の御所』

かつて皇女がお住まいになった尼門跡なんどす

哲学の道から山の手に少し上がったところに位置する、臨済宗南禅寺派の「霊鑑寺」。
大文字山(如意ケ嶽)のふもとにある霊鑑寺は承応3年(1654年)、後水尾天皇(ごみずのおてんのう)の皇女である多利宮(たりのみや/浄法身院宮宗澄尼)を開基として創建された尼門跡寺院です。

門跡とは寺院の格を表すもので、皇族や摂家の方が出家し、お住まいになった寺院をいいます。
明治維新まで5人の皇女・皇孫が入寺され、鹿ケ谷(ししがたに)の渓流沿いに建てられたことから、「谷の御所」とも「鹿ケ谷比丘尼(ししがたにびくに)御所」とも呼ばれてきました。
通常非公開ですが、春と秋の年2回、特別公開されます。

宝形造の本堂は寛政6年(1795年)に江戸幕府第十一代将軍徳川家斉が寄進したもので、本堂にはご本尊の如意輪観音像が祀られています。
如意輪観音像はもともと、ここより東の山中にあった如意寺(にょいじ)のご本尊で、日本浄土教の祖・恵心僧都(えしんそうず)の作といわれています。

平安時代初期の承和年間に創建された如意寺は、応仁の乱後に荒廃・廃絶していましたが、後水尾天皇がこの如意輪観音像と霊鏡(れいきょう)を併せて祀ったことから、霊鑑寺と名付けられました。
本堂などの建造物は創建当時、現在の南隣にありましたが、貞享3年(1686年)、後西(ごさい)天皇の皇女普賢院宮宗栄(ふげんいんのみやそうえい/当寺二世)のとき、後西天皇の院御所の旧殿のうち、御休息所および御番所を移して建てられたのが現在の書院、そして表門・玄関・居間になります。
これらの建物は江戸時代の尼門跡らしい格調の高さと清楚な佇まいを今に伝えており、それぞれ京都市の有形文化財に指定されています。

狩野派や応挙が手掛けた襖絵が見られるんや

書院内部には華麗な襖絵をはじめ、仁孝天皇の皇女で、第十四代将軍徳川家茂に嫁した和宮の遺物と伝わる「経机」や、歴代天皇遺愛の香炉、軸物、置物、花生、香棚、人形などがあり、これら皇室ゆかりの寺宝を間近でご覧いただけます。

上段の間には格天井が張られ、床の間や違棚が配されるなど、院御所旧殿らしい風格が感じられ、この上段の間とともに、二の間(中段の間)、三の間(下段の間)からなる「謁見の間」は、狩野派の絵師が手掛けた四季花鳥図の襖絵など、金地の豪華な障壁画に彩られています。
三の間の東側に描かれた「金襖老梅図」は力強い老梅の襖絵で、狩野永徳の筆といわれています。さらに、四の間(仙人の間)、五の間(応挙の間)が続き、ここでは円山応挙作と伝わる見事な水墨画の襖絵を見ることができます。

また、光格天皇皇后より拝領された「花鳥絵カルタ」や新清和院より拝領された「魚獣絵カルタ」、孝明天皇御母の御用品だった「すごろく」、さらには200点以上に及ぶ御所人形をはじめ、加茂人形、嵯峨人形、着付け人形、内裏雛など寺宝が数多くあります。
かつて、ここに暮らした尼宮たちは、優しい笑みを浮かべた赤ん坊や愛くるしい童子の御所人形で遊ばれていたのかしら、と想像をめぐらすのも何とも優雅なひと時です。

秋には紅葉、春には椿を愛でておくれやす

書院南側には東山連峰の大文字山より延びる稜線を利用して作られた庭園があり、これは江戸時代の茶人で作庭家の小堀遠州が手掛けたといわれています。
池には立石を多く使った石組が配され、特に大ぶりの立石と石灯篭の調和が美しく、江戸時代中期頃の作庭手法が見られる池泉鑑賞式庭園となっています。
現在は池に水はありませんが、手前の白砂が清々しい印象を受けます。

この広い庭内には後水尾天皇が愛した椿がたくさん植えられており、「椿の寺」としても知られています。
冬には「寒椿」や「侘助椿(わびすけつばき)」が咲き出し、3月から4月にかけて、光格天皇がさし芽をされたという大輪が優美な「白牡丹椿(はくぼたんつばき)」、そして後水尾天皇が実際に愛でたという樹齢400年の「日光椿(じっこうつばき)」が境内を華やかに彩ります。
京都市の天然記念物に指定されているこの日光椿は、葉はぽってりと厚く、真っ赤な花は丸く半球体の形をしているのが特徴です。

そのほか、霊鑑寺散椿(れんかんじちりつばき)、舞鶴椿(まいづるつばき)、菱唐糸椿(ひしからいとつばき)、月光椿(がっこうつばき)、獅子頭椿(ししがしらつばき)、蝦夷錦椿(えぞにしきつばき)など実に100種類以上の椿が色や姿を変えて咲き競います。
日本では江戸時代後期、花が一気に落ちることから、椿は武士の間で忌み嫌われていましたが、中国ではいつまでも若く丈夫な木として、おめでたい花と考えられているそうです。

また、これからの季節は紅葉が大変美しく、山裾に広がる庭園では、樹齢350年を超えるタカオカエデが参拝者を出迎えます。
春と秋の特別公開の期間中は、菊の御紋が入った御朱印もいただけるとのこと。
霊鑑寺のすぐお隣には安楽寺、そこから少し進むと法然院や銀閣寺が立ち並び、しっとりとした風情を感じられる、オススメの散策コースとなっています。

※平成30年(2018年)秋の特別公開は11月17日(土)~12月2日(日)です。

取材協力 : 霊鑑寺
〒606-8422 京都市左京区鹿ケ谷御所ノ段町12
電話番号 : (075)771-4040
FAX番号 : (075)771-0103

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